
※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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(2015年2・3月号)
Vol.36 : スマホゲームにハマって……
『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷/角川文庫)
はじめは業務上のリサーチのつもりだった。ちょっと触っておくか、とスマホのゲームアプリをダウンロード。だいたいの様子が分かったところで切り上げようと思っていたのだが、だんだん面白くなってきて、あと少し、あと少し、とやっているうちに、気が付いたら1年が過ぎていた。
見事にハマった。まだ当分抜けられそうな気がしない。まあ、こうなるんじゃないかとは薄々わかっていたのだが。高校時代、当時出始めだったコンピュータをいじってゲームプログラムを嬉々としてつくっていたら、いつのまにか青春が終わっていた香ばしい過去。数学研究部長。オタクという言葉はまだ無かったけれど、そういう体質なのだ。間もなく家庭用ゲームが出てきて、これはマズイとそれらを遠ざけたが、しかしその後、広告会社で家庭用ゲーム機の市場導入を担当、業務上のリサーチということで手を出したら案の定、コントローラーを持つ指を支えていた掌の具合に変調をきたすまでどうにもやめられなくなった。20年たった今も寒くなると掌が痛む。
またやっちゃった・・・・・・という感じではあるが、今回のスマホゲームがやめられないのは、そこに(仲間)がいるところ。いわゆるソーシャルゲームというやつで、複数人でチームを組んで、世界中のチームと対戦できる仕組みになっている。全く面識のない人がたまたま集まったチーム。作戦を練るための簡易なチャット欄があって、そこでことさら立ち入った話を交わすわけではないのだけれど、会話の端々から察するに、昔なら互いにほとんど全く交わることのないであろう社会属性が交錯していることがうかがえて、これが何とも不思議で面白いのである。
現場があるから早起きしなきゃ、雨が降らないといいな、といつも夜の10時頃には画面から消える土木作業員の彼がチームのリーダー。長距離の途中だからその時間までに攻撃に参加できるかどうか・・・・・・これはトラック運転手。今日は同乗研修でずっとログインできなかった・・・・・・同乗研修という言葉を調べてみるとどうやらタクシーの新米運転手らしい。年末年始も仕事という家電量販店の店員や、決まって明け方近くの時間にログインして一息ついていく気のいい看護師さん等々。中には、四六時中ログインしていてどうにも属性の見当がつかない人もいる。あ、それは私もか。まさか40代のオッサンだとは思うまい(笑)。
なんかね、こういうの懐かしいんだな。今は東京にいて、たくさんの人たちと日々仕事をしている。いろんな個性の人がいて、いろんな刺激をもらう。でも、どうもそれは一定の社会属性の枠の中に限定されてしまっているような違和感が私にはある。田舎で育ったせいかしら。地域に一つしか学校がなくて、みんなそこにつっこまれる。そこで起こったあれこれを思い出してみるに、今の生活は極めて帯域が狭いというか。スマホゲームに参加する人にもある種の傾向のようなものはあるにはあるのだろうが、それは例えばフェースブックがつないでくれる関係よりも、格段に混沌としていて非連続的だ。
最近、若いマーケターと話すと、帯域が狭いなと感じることが多くなってきた。きけばだいたい都市育ち。これも時勢か。今回の推薦本は『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷 著)にする。著者が自分の家族について書いた月刊誌の連載コラムを集成したもの。抱腹絶倒、はちゃめちゃなエピソードが連続するから、全くの荒唐無稽に見えるかもしれないが、そう感じたら自分の帯域の狭さを疑ったほうがいい。その帯域外の世界を知っている人が読むと、この本の世界はものすごく切実なリアリティがあるのである。そう言われてみると自分は子供時分から分化された属性の枠の中で育ってきたのかもなぁ……と思い当った人はぜひ。(了)
スマホのゲームで私はチームのサブリーダー。メンバーのWEBページをつくったり、対戦名場面をムービーにして動画共有サイトにアップしたり・・・・・・と結構労力を割いている。「よくできてますね」とメンバーからは好評、まさかプロがやってるとは思うまい(笑)。
※この時に始めたゲームは、2026年の今も続いている。10年以上になるから、一緒にやってた仲間もほとんどアクセスしなくなり、気がむいたときにアクセスするのが数人いる程度だけど。リーダーも引退を宣言、私が二代目を襲名したものの、仕事におわれて半年くらいアクセスしなかった時期もあったりして。そうこうするうちに、昨年2月、一番熱心に参加してくれていたメンバーが、がんで亡くなった。私と同世代、とても律儀で、私が半年さぼったときも、実質的なリーダーとしてチームの面倒をみてくれた人だった。出張のついでに、京都に彼を訪ねたことも。亡くなる少し前に病気であることを告げ、もう身体に力が入らないからうまくできないけど、と最後のプレイをして、アクセスがなくなった。しばらくして、別のメンバーが京都を訪ね、妹さんからみなさんへの感謝のメッセージをあずかってきた、とチャットに報告が入った。冒頭の画像は彼のアカウント。ご冥福を祈る。合掌。(2026年5月加筆)
- 『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷/角川文庫)
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