
※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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(2011年8・9月号)
Vol.15 : 白黒のすすめ
『ウォールストリート・ジャーナル式 図解表現のルール』(ドナ・M.ウォン/かんき出版)
カラーの企画書が珍しくなくなったのは、ここ10年くらいか。20年前に私が企画書を書き始めた頃は、モノクロが当たり前だった。当時使っていたマッキントッシュの画面もモノクロ、出始めのレーザープリンタも恐ろしく高価だったがモノクロだった。
カラーが普通になって、ずっと気になっていたのは、企画書の出来がともすると甘くなること。要するに、ロジックが精錬されてなくても、色でなんとかごまかしてしまえる、ということだ。
自分の企画書の出来が甘いかどうかは、それをモノクロでコピーして眺めてみればよくわかる。モノクロになっても芯になる情報が劣化しない、それが優れたドキュメントである。
そんなわけで、最近、事情が許せば、企画書をモノクロで書くようにしている。色を使わない。出来上がったものを送ると「パソコンの画面が壊れたかと思いました」「すみません、さびしいので色つけてください」とか言われることもあるけれど、まあいいでしょう(笑)、企画書のトレーニング法として推薦しておきます。企業も環境配慮やら節電を迫られてる時勢だし、モノクロで書ける技量を磨いておくといいと思う。
だいたい私も含めて、みんな色にはシロウトなんだから、センスよく仕上がる確率は限りなく低いのだ。モノクロで書くのは難しいけれど、結果的にはキレイで知的な仕上がりになるんじゃないかな。
今回の推薦本は、『ウォールストリート・ジャーナル式 図解表現のルール』(ドナ・M・ウォン著/かんき出版)。企画書やプレゼンテーションに入れ込む図解表現法については、すでに多くの類書があるが、本書を進めるのは、これが「新聞」という媒体を前提にした方法を扱っているからだ。つまり、白黒の紙面で、色に依存せずに、伝える技術である。
もちろん、最近の新聞紙面は多色刷りだし、本書にも「色の使い方」という章がある。ことさらに白黒で表現するメリットを謳った本というわけではないのだが、本書において学ぶべき最大のポイントは、白黒のすすめ、これである。
それにしても、最近のパソコンはカラーがデフォルトだから、モノクロで書こうと思うとこれが結構面倒くさい。エクセルとか、昔はモノクロモードがあったような気がしたんだが……今度のバージョンアップではぜひモノクロモードをよろしくお願いします。(了)
小学生の頃、図画工作が苦手だった。弟は絵がうまくて、学校でいつも賞をもらってくる。母親は、私の絵を弟のと見比べて、水で薄めすぎた絵の具が貧乏くさくてなんとも陰気だ、ケチらずもっと絵の具をつかわないと、と言っていたのをおぼえている。ケチで薄めてたわけではないのだが、確かに色のセンスはひどかった。家業の和菓子屋は、弟が継いでくれて本当によかったと思っている。

※本稿は音楽についての記述がなかったので、Web掲載にあたって追記する。推薦盤は、ジョン・ケイルの1992年のツアーを収録したライブアルバム「Fragments of a Rainy Season」。白黒にテキストだけのジャケット(曲を増補しての現行バージョンではグレー地に白文字になっている)にあるシェイクスピアの引用(『マクベス』第三幕の第三場、バンクォー暗殺のくだり。バンクォーの「今夜は雨だな」のセリフに、刺客が「血の雨よ」と斬りかかる~木下順二訳)が意味するところはよくわからないけれど、このライブ、実にいいのである。ステージには彼ひとり、楽器はピアノとアコースティックギターだけで、これまでバンドや多重録音で発表してきた楽曲を〝裸〟にして歌ったもの。在籍していたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの印象(アンディ・ウォーホルの印象も混じっている)からか、知的ギミックで聴かせる人…だと思っていたが、このライブをきいて(実際にこのツアーを九段会館で聴いた)、認識をあらためた。まさにモノクロになっても劣化しない…というか、こうやって音を削ぎ落としたノーギミックの演奏できいてはじめてこの人の真価がわかったのである。(2026年4月加筆)
- 『ウォールストリート・ジャーナル式 図解表現のルール』(ドナ・M.ウォン/かんき出版)
- Fragments of a Rainy Season / John Cale