
※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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(2009年10・11月号)
Vol.4 : 「ティップス」は「技術」ではない
『調べる技術・書く技術』(野村進/講談社現代新書)
若いマーケターや広告マンを見ていると、彼らが大変に勉強熱心であることに感心させられる。 スキルアップ、ということに自覚的というか。 本を読めば「役に立ちました」と言い、セミナーに行けば「明日からの業務に活かせます」、人に会えば「人脈ができました」という具合。
私がその齢の頃は、半人前はすっこんでろ!と言われて右も左もわからないままオロオロし、口を開けて先輩の仕事ぶりを眺めていたような時分だった。 時代が違うのか、はたまた出来が違うのか。 しかし、今の若者に感心しながらも、一方で、まぁちょっと落ち着いて、と言ってあげたい気持ちになる。 すぐに使える(あるいは使えそうな気がする)ものばかり、そんなにしゃかりきになってかき集めなくてもいいんじゃないか。 すぐに使えるもの、というのは、誰にでもカンタンに身につくもの、でもある。 パソコン操作等の便利な小技を「ティップス」(Tips)と言うが、あれみたいなものだ。 すぐに役に立つけれど、それであなたが真に成長するわけではない。
「調べる技術・書く技術」(野村進著/講談社現代新書)は、ベテランのノンフィクションライターが書いた技術論。 一見、すぐに役に立つ本に見えるが、先の若者に感想を聞けば、多分「役に立ちませんでした」と言うだろう。 業界が違うのでこれらのテクニックはすぐそのまま使えませんね、という「ティップス」を求めるような読み方では本書は確かに役に立たない。
どんな職人でも、一人前になるには最低10年はかかるでしょう・・・・・・著者が先輩からうけたアドバイスで最もうなずけたものはこれだ、と言う。 すぐに役立つことばかりを求めるな。 この本の真の主題は、「ティップス」から最も遠いところにある「プロフェッショナルの技術のありよう」なのだ。 そのレベルを読むことができれば、つまり、書かれた具体的なハウツーではなく、アティチュードを学ぶ、という読み方ができるならば、これほど『役に立つ』ビジネス書はそうそうあるものではない。
まあちょっと落ち着こう。 今日明日の勝負ばかりじゃない。先は長いよ。(了)
秋にはブラームスがよく合う、英国の名匠サー・エイドリアン・ボールト(1889-1983)の録音がいい。ブラームスを愛したボールトは、指揮者として一人前になれたと自ら確信できるまで、ブラームスを指揮しようとしなかったという。

- 『調べる技術・書く技術』(野村進/講談社現代新書)
- ブラームス:交響曲第3番/エイドリアン・ボールト(指揮)、BBC交響楽団
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