マーケボン Vol.24

A young woman with cards falling around her

※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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マーケボン
(2013年2・3月号)

Vol.24 : ステマ(笑)
『詐欺とペテンの大百科』(カール・シファキス/青土社)

ネット流行語大賞というのがあって、昨年の金賞は「ステマ」が選ばれた。「ステルス・マーケティング」の略。宣伝であることを「隠して」行われる宣伝行為のこと。例えば、タレントが自身のブログで、特定企業の商品・サービスを推奨する記事を書く。その行為に金銭等の報酬が伴っているのに、そのことに関する記載は一切なく、さもその人の中立的な意見のように装われている。そうした事象に向けて投げつけられる言葉、それが「ステマ」である。

広告の〈倫理〉が問われている、という深刻な議論はもちろん欠かせない。米国では、連邦取引委員会が、商品・サービスの推奨者と、マーケター・広告主との間の金銭授受の有無等を開示することを義務付けるガイドラインを新設している。消費者保護の観点から、日本においても、ネット時代に適合した広告のガイドラインを早急に整備することが必要だ。

その上で・・・ということで以下を書く。この「ステマ」という言葉、流行語というくらいだからネットのあちこちで使われているのを目にすることができるが、実際のところ、そこに込められているニュアンスは、シリアスな批判や怒りというよりは、失笑や嘲りといったものに近い印象を受ける。「ステマ(笑)」という感じの用例が多いのである。

問われているのは、広告の〈芸〉なのだと言ってしまおう。芸の無さが笑われているのだ。「騙された!けしからん!」(=倫理)よりも「全然おもしろくないよ」(=芸)と読む視角。マーケターにとって今日必要なのは、オレはシロだぜ、という他人事なのではなくて、笑われているのはもしかしたら自分なのではないか、という自問である。

広告の値打ちは、シロかクロかというところには無いというか、そもそも広告というものが真っ白であるはずがないではないか。語弊を恐れずに言えば、広告とはフェアに気持ちよく騙す芸である。もっと正確に言うと、ああこれなら騙されてやろう、と客に思わせる芸。「お見事!」という感じ。シロクロではなくて、芸格の高低。広告の値打ちはここにあると私は思う。

『詐欺とペテンの大百科』(カール・シファキス 著)が今回の推薦書。この数世紀の間に起こったありとあらゆる詐欺事件が収録された分厚い事典だ。「悪ふざけ、ホラ、作り話、でっち上げ、かたり、贋作、偽造品、などなど何でもござれのペテンの玉手箱。訳しながら驚いたり、呆れたり、憤慨したり、時にはちょっぴり羨ましいと思ったり、そして時には思わず声を上げて笑ってしまったこともあった」と訳者あとがきに曰く。そう、中にはあるんです、「お見事!」が。

詐欺やペテンは全くけしからぬことであるには違いなく、間違ってもその手口を学ぶような読み方をしてはならないが、本書には、広告について、特にその芸格の高低というようなことについて考える手がかりが随所に埋まっているのである。(了)

推薦書が気に入ったら、『詐欺師の楽園』(種村季弘 著/岩波現代文庫)も是非。詐欺師を、硬直した制度をひっかきまわすトリックスターと捉えた巻末の小論が抜群に面白い。トリックスターって何ですか・・・という方は『道化の民俗学』(山口昌男 著/岩波現代文庫)をどうぞ。

J. Strauss II: Die Fledermaus

※本稿は音楽についての記述が無かったので、Web掲載にあたって加筆する。推薦盤は、ヨハン・シュトラウス2世(1825-1899)のオペレッタ「こうもり」。序曲が大変に有名で、誰もが聴いたことがあるはず。浮気性の男女が入り乱れて、互いをペテンにかけあう騙し騙されのドタバタ喜劇で、話は下世話なことこの上ないが、何しろ音楽が素晴らしく、第一級の芸術として認められて今に到る。ウィーン・フィルは大晦日にこれをやって、正月にニューイヤーコンサート、が恒例だ。よい演奏は、シャンパンの泡の弾けるような、と形容される。「お見事!」ということだ。オマケで、こうもり序曲を使った名作アニメーション「トムとジェリー」のリンクも。子ども向けのドタバタだが、なんとも洒落ている。これもまた「お見事!」である。(2026年4月加筆)

  • 『詐欺とペテンの大百科』(カール・シファキス/青土社)
  • 『詐欺師の楽園』(種村季弘 著/岩波現代文庫)
  • 『道化の民俗学』(山口昌男 著/岩波現代文庫)
  • ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」/カルロス・クライバー(指揮)、バイエルン国立管弦楽団、ヘルマン・プライ(バリトン)、ユリア・ヴァラディ(ソプラノ)、ルチア・ポップ(ソプラノ)、他
  • トムとジェリー『星空の音楽会』(1950)
    ※途中でカットされているのが残念

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