マーケボン Vol.20

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※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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マーケボン
(2012年6・7月号)

Vol.20 : 音声としてのプレゼンテーション
『小林秀雄講演』(新潮CD)

プレゼンテーションというのは実に難しい。傍から見ると、緊張してないように見えるらしい。人前で喋るのは得意でしょうと言われるが、いやいやとんでもない。生来の小心で、こればっかりは何度やっても一向に慣れるということがなく、毎回冷や汗のかきどおしなのである。

広告会社のプレゼンテーションだと、私が喋って、その次にクリエイティブディレクター。横で聴いてると、こりゃうまいなぁ・・・・・・と感心させられることがある。相手である得意先はもちろん、企画案を事前に知っているこちら側まで、心を鷲づかみにされてしまうようなプレゼン。

どこぞのプレゼンテーション講座で習うような、アメリカ風のアレではない。あれが似合う日本人は極めて少数だろう。とんでもなく嫌味になるか、だいたいはブカブカの背広を着たみたいに痛々しくて見てられない出来になる。

喋る内容が隅々まで自分の手の内に入っている感じ、故に、殊更に技巧や演出を加えなくても、喋りたいように喋って、自然に過不足のないところに落ち着く。〈素〉なのである。口先だけとか、頭でっかちな感じが皆無、擬勢がないから聴き手が安心して自ら心を開いてしまう。

私もあんな風にプレゼンできたらいいな、といつも思うのだけれど、これがなかなか難しい。企画書は、書いたものが手元に残るから、いくらでも反省することができるけれど、音声としてのプレゼンテーションは、「空中に消えてしまい、二度と捕まえることはできない」(ジャズ奏者のエリック・ドルフィーが音楽について語った言葉だ)のである。

プレゼンの修行になるかどうかは確信が持てないが、私は自分のプレゼンや講演の直前に、ヘッドホンで人が喋ったものの録音をよく聴く。プレイヤーに入っている極め付けは、五代目古今亭志ん生「火焔太鼓」かな。聴いてると知らず涙が出てくるという水準で、見習うというのも恐れ多い。マーティン・ルーサー・キング・ジュニア「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」も、私は英語がからっきしダメだが声の力に感化されたくて選択することが多い。

プレゼン直前ではなくて、もう少しゆっくり時間を使える時によく聴くのは、小林秀雄の講演録音(新潮社から全7巻が発売されている)。小林秀雄というと、「モオツァルト」「Xへの手紙」など、あの独特の難解晦渋な文体を想起される方が多いだろうが、講演録音はびっくりするほど親しみやすい。冗談抜きで志ん生の落語かと思ったと言う人もあるくらいで、聴いてて快く、ついつい引き込まれてしまう摩訶不思議な代物。騙されたと思ってぜひ。

マーケのプレゼンっていつもだいたいつまんねぇよな、とは言われたくないものです。(了)

とあるご縁で、白洲信哉さんという方のホームページをお手伝いしている。父方の祖父母が白洲次郎・正子、母方の祖父が小林秀雄、という方で、ホームページ制作の参考にと拝借した資料の中にCDが入っていたのが、小林秀雄講演録音との出会い。私が好きなのは、生涯最後の講演となった「正宗白鳥の精神」。酒乱だったこの人らしいエピソードが織り交ぜられていて、何度きいても可笑しい。

Last Date / Eric Dolphy

※本稿は音楽についての記述がなかったので、Web掲載に当たって加筆する。文中に出てくるエリック・ドルフィー(1928-1964)の言葉は、このライブアルバムの一番最後に収録されている。原文は、 “when you hear music, after it’s over, it’s gone in the air, you can never capture it again.”。アルバムタイトルが示すように、これが遺作になった。糖尿病による心臓発作で、参加していた楽団のツアー中に欧州で客死、36歳。(2026年4月加筆)

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