マーケボン Vol.33

CS-15

※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
詳細はこちら

マーケボン
(2014年8・9月号)

Vol.33 : YMOになりたかった話
『Excel ビジネス統計分析』(末吉正成・末吉美喜/翔泳社)

10代の頃、私のアイドルはYMOだった。岐阜の山奥の中学生は、ある日、テレビで彼らの演奏する姿を見て、これだ、これだよ、と大いに興奮したのだ。こんな「カッコイイ」がありうるんだ、と。

それまでの(70年代までの)「カッコイイ」は、「不良っぽい」とほぼ同義で、不良になる意気地の無い私のような男には少しも縁のないものだった。もっと有り体に書けば、女の子にモテるに遠かったということだ。モテるのは、勉強よりも運動、タバコが臭う変型学生服に喧嘩上等、あるいはギターなんか弾いて愛だの恋だの歌っちゃうヤツ。運動神経がゼロ(逆上がりができなかった)で、小学生のような甲高い声とタッパ(第二次性徴が遅かった)の優等生、これはどう考えてもモテる気がしなかった。それでも何とかしたくてギターを借りて抱えてみたら、田端義夫みたいだと言われて心で泣いた。いいじゃないかバタやん、と40代も半ばを過ぎた私は思うのだが、思春期の私は青かったのだ。

そこに、YMOですよ。クールにシンセサイザーを操る知的な姿。不良じゃないのに「カッコイイ」。運動できなくても、声変わりしてなくても、これなら可能性があるんじゃないか。よし、ギターじゃなくて、シンセサイザーを買うぞ。コンピューターで愛だの恋だの言わない音楽をやる。僕はYMOになるのだ。

どこでどう誤ったのか、当時はオタクという言葉もまだ無かったわけだが、高校生の私は立派なそれになっていた。数学研究部の部長。数学研究はただの看板、部室はマイコン少年(パソコンではなくマイコンと呼ばれていた)の溜まり場で、私はさらにモテから遠く隔たった場所に後退してしまっていた。YMOになるんじゃなかったのかよ、おかしいなぁ。

YMOになれないことを、私は結局機材のせいにした。その頃、アマチュアに手の届く値段のコンピューター/シンセサイザーの性能と、YMOが使っていた何百万円もするプロ用の機材の性能とでは、大きな差があったのである。自分のシンセサイザーは単音で和音が出ないしさ、24トラックを多重録音できるスタジオもないしさ・・・・・・というようなところを、自分がYMOになれない方便にしたわけだ。自分と坂本龍一の差は、畢竟予算の差である。そんなわけないだろ。

最近のコンピューターは、あの頃の水準に比べると驚異的な進化を遂げている。誰もが普通に使っているパソコンに、アプリをインストールしてやれば、YMOを超える音楽制作環境をごく低予算であっけなく構築することができてしまう。ある意味で、大変に容赦のない時代になった。一線級のプロと同じ道具、となれば厳然と突きつけられるのは、能力の差だけだ。いつものパソコン、何気なく使っているのだけれど、実に残酷な性能を秘めているのである。

ときにマーケティングの仕事も、パソコンの登場で便利になりましたよね。昔は電卓叩きながら、方眼紙にグラフを書いたもの。今や表計算ソフトでグラフなんてあっという間。いい時代です。でもちょっと待った。あなたの使っているパソコンの性能、実にそんなもんじゃないんです。

今回の推薦書は『Excel ビジネス統計分析』(末吉正成・末吉美喜 著)。へえ、エクセルってこんなこともできるの。高価な統計解析パッケージに精通した一部のエキスパートにしかできないんだと思ってたことが、いつものパソコンの画面で追加投資なく手軽にできちゃう。クラスター分析なんかもできるんだ。マジですか、参ったな。統計分析の難しいところは自分じゃできないからね、というのを不勉強の方便にしてきたマーケターは(私もそうだ)、一度本書を見ながら実際に手を動かしてみることをおすすめしたい。

ビッグデータ時代と喧しい。手元のパソコンでちょっとした統計分析なら自分でこなせる容赦のないマーケティング担当者が、あなたのクライアントとして目の前に座る時が遠からずくるであろう。(了)

推薦書巻末の参考図書リストは統計学をもっと詳しく学びたい人によい指針になる。私も勉強しなきゃ。続刊の「Excel マーケティングリサーチ&データ分析」「Excel 売上データ分析」も良書。

ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー

※私がテレビでみたYMOは、1980年末の武道館公演(フジテレビ系列で録画が放映された)。本人たちは予想もしなかった人気の急上昇(小中学生が中心の)に大いに戸惑い、どこにいっても追っかけ回されるのに嫌気がさしていたようで、この後、1981年には、わざと捻くれたアーティスティックな音像へと急変、生半可なファンを振り落としていくことになる。本当はその時期を推したいのだが、昭和の小中学生に与えた衝撃の大きさでいえば、やはり1980年のセカンドアルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」が順目だろう。シンセサイザーもまだアナログの電気回路だった時代とは思えない、今聴いても十分〝未来〟の音がする。冒頭の画像は、高校に入学した時(1982)に祖父に買ってもらった初めてのシンセサイザー(YAMAHA CS-15)。和音は出ない。(2026年5月加筆)

  • 『Excel ビジネス統計分析』(末吉正成・末吉美喜/翔泳社)
  • Solid State Survivor / Yellow Magic Orchestra
  • YMO 1980 World Tour(フジテレビが43年ぶりに再放送した際の番宣)
  • YAMAHA CS-15

「マーケボン」のタイトル一覧