
※読売新聞社の刊行物に連載した書評のアーカイブです。
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(2013年8・9月号)
Vol.27 : ビジネス戦略本の取扱説明書
『経営戦略全史』(三谷宏治/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
以前、とある雑誌の編集からメールがきて、ビジネスパーソンに向けて本を推薦しろと言うので、その場で返信してそのまま忘れていたら、ずいぶん経ってから掲載誌が送られてきた。誌面を見た途端にギョッとして冷や汗・・・・・・他の人たちが挙げた推薦書から完全に浮いているではないか。その雑誌、ビジネスコンサルタント(あるいはその志望者)が読むような内容なので、推薦者に広告屋なんてひとりもいない。知ってる人いないぞ、っていうか、向こうだってお前のこと知らないだろうが。いわゆるアウェーってやつ。
推薦図書、当然ながらコワモテのビジネス書がズラリと並んでいる。経営戦略論などのビジネス戦略本が大勢、文芸書など薦めている場合ではなかったのだ。本連載を読んでくださっている方は何となく見当がついているのではないかと思うが、私、ほとんど全くこの手の本を読まないので、こういうリストとは縁が遠い。この手の本の中にもそりゃ良書はあるんだろうけど、わたしはこのジャンルから感銘を受けたことは正直なところあまりないのである。
暴論と怒る人もあるかもしれないが、本を読んでビジネスがうまくいくんだったら苦労はしないのだ。それらの本に書かれていることは要するに〈結果論〉、うまくいったことをあとから振り返って整理したもの。そういうものだと思って読むのは良いが、往々にして順逆が転倒、こうすればうまくいく、という読み方をしてしまうと間違える。広告屋にもこの手の本を熱心に読む人は多いが、マジメな人ほど間違えるんだな、これが。
ストラテジーとは、未来から振り返って書くもの。自分の目論見があたってうまくいった時の様子をありありと思い浮かべてその成功に至る道程をさかのぼって書く、それが企画書、言うなればまだ見ぬ未来の〈結果論〉なのだ。それに自覚的な人のドキュメントはキレがいい。ビジネス戦略本を読むのなら、その〈結果論〉の書き方の参考書、ボキャブラリーを増やしてやろうというくらいのテンションで、というのが適当な読み方ではないかと私は思う。
今回の推薦書は「経営戦略全史」(三谷宏治著)。この100年の経営戦略の主要論者とその論の概略をまとめた本。マイケル・ポーター、フィリップ・コトラーといったおなじみの名前から、エクセレントカンパニー、コアコンピタンス、ブルーオーシャン、リバース・イノベーション、リーン・スタートアップ、アダプティブ・・・・・・等々、今日にいたるまでの様々な論がひとつのパースペクティブの元に見事に整理されていて、なあんだ、みんなそういうことをあれこれ論じてたのね、だったらもっと早くそう言ってよ・・・とちょっと身も蓋もないくらいスッキリサッパリとした見通しが得られる。
単なる解説書ではなく、ビジネス戦略論というジャンル全体の取扱説明書、という感じに読めるのがこの本の面白いところ。「すべての理論は間違っている」というミンツバーグの言葉を引いて、どれでも使えそうだと思うちのを選べばいいという終章なんか特にいい。テンションが絶妙。ビジネス戦略本を熱心に読んでいる、特に「マジメ」な人に強くおすすめしたい一冊です。(了)
最近、知人の薦めで、ジャズ評論家の方が講師をつとめるジャズ入門講座を受講している。一通りは聴いてきたつもりだったから今さら入門なんて・・・・・・と辞退したが、ジャズ100年分の録音をあらためて体系的に聴いていくうちに思わぬ発見があって思った以上に楽しい。ジャズってこういうことだったのね。推薦書の読後感と通ずるところがある。

※本稿の最後に付記したジャズ入門講座は、慶應義塾大学丸の内シティキャンパスの講座。当時、知人が大学事務局に転職したところで、私をモニターとして受講生に加えてくれたのだった。講師は、中川ヨウ氏。著書に「ジャズに生きた女たち」(平凡社新書)がある。この講義をうけるまで、ジャズといえばモダンジャズで、器楽的なものばかり、ボーカルはほとんど聴いてこなかったが、むしろジャズの本懐は〝歌〟なのだ、と蒙を啓かされた。器楽であっても、あれは楽器で歌っているのだ。そういうことがよくわかる盤を一枚、といわれたら、エラ・フィッツジェラルドのベルリンライブ(1960)を推す。「マック・ザ・ナイフ」でのルイ・アームストロングのトランペットを模写する唸り、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」の奔流のようなスキャット、このあたりで思わず膝をうつはず。
- 『経営戦略全史』(三谷宏治/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
- 『ジャズに生きた女たち』(中川ヨウ/平凡社新書)
- Ella in Berlin / Ella Fitzgerald